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独り言を言う人々

 今の職場に、常に独り言を喋っている人が二人いる。それと、住んでいるアパートの近所の中華料理屋の店主も、独り言を言いながら厨房に立っていた。

 職場の独り言おじさんAは、私のデスクの正面にいるので、自分のデスクにいるかぎりその人のぶつくさを聞くことになる。それが、ずっと独り言なら良いものの、ときどき私に向かって何かを訪ねたり声をかけてきたりするので、困る。常に耳を傾け続けることを要求されているような感じがする。それがもう50歳前後? のベテランの人なので、どうしても気を使うのだ。邪険にするのも悪い気がして。

 それで、わたしは職場内の別のデスク(この部屋には私一人しか来ない)に逃げ込むことが増えた。サボっているというわけではなく、単に場所を移して仕事をしているだけだ。まあ、雑用などを頼まれないのも便利なのだが。

 その一人の部屋からは、遠い山並みが未だ雪で白く染まっているのと、眼下に桜の蕾がいよいよひらこうと膨らんでいるのが、同時に見渡せる。ああ、春だ。そして窓を開けると生暖かい空気が吹き込んで来る。建物の中よりも暖かい風だ。近くには車の通りの多い道路もない。

 何年も、何十年も前からそこにあったようなデスク、棚、仕事に関する様々な道具などを、先日濡れ雑巾で拭いた。表面から埃が拭い取られると、日に焼けて色あせてはいるものの、なかなか居心地のいい空間になった。こんな快適な部屋ができてしまって、本来いるべきオフィスに戻るのが億劫になった。とはいえ、そこで一日中過ごすわけにはいかない。20分ほどそこで深呼吸したりストレッチしたり、事務的な書類の処理をしてから、独り言おじさんA、と、狭すぎるパーソナルスペースが待っているオフィスに戻っていくのだ。

 

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 職場のもう一人、独り言おばさまBは、上品な落ち着いた服を着こなしていて、感じのいい人なのだが、いささかコミュニケーションのスタイルが独特だ。何も声をかけずすっと忍び寄ってきて、こちらが気付くと、自分の伝えるべき伝達事項をずらーーーっと並べ立てて、慌てて返事をすると、さっさと去っていってしまうのだ。

 その人は、私の一人の部屋よりもずっと広い、ちょっと特別な部屋で一日中働いている。長い間、何年もそういう働き方をする職種なのだ。もしかするとその寂しさが彼女の独り言の癖を生んだのかもしれない。今日、その女性の仕事場に用があって、ノックして入ってみると、私がそばに寄っていくまでずっと、独り言を続けていた。用件を伝えて、部屋を出て戸をしめたあと、ちょっと耳をそばだててみると、また何かを喋り始めた。ああ、不思議なものだなあ。

 

  ※

 

 一人で過ごしすぎるのもよくないかも、と思った。

 最近、youtubeでお笑いの動画を見ることが増えた。暗い部屋で、ノートパソコンのブルーライトに照らされながら、ひとりで「へへへっ」と笑うのである。そして眠くなったら画面をぱたりと閉じる。

 そのあとの無音が寂しい。ぎゅっと抱きしめる恋人か、すり寄って来る猫か、さもなくば大きなぬいぐるみかが、隣にいてほしい。まだ水曜日だ。このブログを公開したら、すぐにノートパソコンを閉じる。ぱたり。