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ありえない空想に時間を費やすこと

 もしも宝くじがあたったら、と考えるのは楽しいけれど、「ま、どうせ当たらないんだけどね〜」というオチ、もしくは「そもそも宝くじ買ってもいないんだけどね〜」というオチがつく。具体的にどうやって資産運用しようとか、当たったその日に何をするとか、どこまで人に伝えるべきなのか、とか考えるのが楽しい。歳をとるにつれて、だんだんと細部にリアリティが増してきて、考えるのも飽きない。

 

  ※

 

 私は生活している最中に、宝くじがあたったら、以外にもありえない空想に時間を費やしていることが多い。

 例えば、

・どこでもドアがあったら今の恋人と会いやすくて楽だし、お互いの部屋に寝る前だけそっと入っていって、夜だけでも一緒に寝られるようにしたい

・恋人と過ごしている部屋の外が水没していて、仕事も何もかもなくなって、食料は、しばらくのあいだ、水面に浮かんでいる、近所のスーパーから流れてきたスナック菓子などの密閉された製品ばかりで、気分が乗ったら、水底に沈んでいるワインとかビールとかを、潜水してとりに行くような生活がしたい

・北半球と南半球の空気を入れ替えて適温にできる巨大なダクトパイプをつくる

・身長30cmくらいの小人になって、猫の背中にしがみついて、入り組んだ細いけものみちを探検したい

・煉瓦の古い洋館で爺やと面倒見のいいおばさんのメイドさんに面倒を見られながら、ときどきやってくる客とおいしい食べ物を食べて暮らしたい

などなど。

 

  ※

 

 お風呂に入っているときと、寝る前にそんなことを考えることが多い。一番素敵なのは、家の周りが水没する妄想だなあ。ポテトチップスとかポップコーンの袋がぷかぷか浮かんでいるのを取りに行って、窓のそばで水面を眺めながら食べたい。にんじんやセロリ、キュウリもよく洗って、マヨネーズをつけて食べる。パッケージされた食肉製品もきっと浮かんでくるはず。シャウエッセンは割とレアだから大事に使おう。カップラーメンも浮かんできそう。

 そんな日々がしばらく続くと、漁業関係者や海上自衛隊の船がやってきて、食料を配給するようになる。国会議事堂も水の底。空港の滑走路も水の底。すべてが海上交通の世界。私と恋人は船をつくって、ときどき遠くへ行く。足元がすこし沈んだビル群。渋谷のスクランブル交差点は完全に沈んでいて、ツタヤの二階からようやく入れるぐらい。銀座の歩行者天国も沈んでいるので、自家用のヨットなどを持っているお金持ちがビルに船を繋留してお買い物にくる。電車や車のような交通機関が失われたことで、人々はこれまでの生活が、速度に毒されていたことに気づく。不便さがむしろ心を穏やかにする。みたいな。

 

  ※

 

 まあ、これも妄想なんですけど。考えている間とても幸福じゃない? わたしはこういう幸福を大事にしたい。現実生活に支障をきたしているわけじゃないし、自分の心の奥に広くて深い世界を掘削しているような感じがする。 こういう妄想を人に話して、「それって素敵じゃない?」 って話をするのが好き。